藁の上からの養子への遺言(遺言文例 69)
遺言書
第1条 遺言者は、遺言者の有する預貯金の中から金300万円を、満福寺(主たる事務所、久留米市寺町1番地1)住職山下和雄(昭和30年10月10日生)に遺贈する。
第2条 前条の遺贈は、永代供養のためのものです。満福寺住職には、田中家の永代供養をお願いします。
第3条 遺言者は、遺言者の有する預貯金の中から第1条記載の300万円を除いた残額その他一切の財産を次の者に包括して遺贈する。
長崎県島原市城内1丁目3番地3、中村幸子(昭和39年3月3日生)
第4条 遺言者は、この遺言の遺言執行者として、次の者を指定する。
福岡県久留米市中央町38番地23
行政書士 宮崎 信幸(昭和33年3月3日生)
2 遺言執行者に対する報酬は、金50万円とする。執行報酬については、遺言者の有する預貯金から優先的に支出するものとする。
付言 幸子は、私と血の繋がった実の娘です。いわゆる「藁の上からの養子」です。私が17歳の時、当時付き合っていた彼氏との間にできた子供でした。しかし私達二人には子供を育てる経済力もなく、両方の親が相談して、遠い親戚の子供として出生届を出すことになりました。私は高校卒業後、彼とも疎遠となり大阪に住むことになりました。日々の生活が精一杯で、子供のことを考える余裕はありませんでした。しかし、この歳になって悔やまれることは育てることができなかった娘のことだけです。でも今更、私が実の母ですとは言い出すことは許されません。娘とその家族の現在の生活を混乱させるだけだからです。そこで、せめての償いとして少しばかりの預貯金を渡すことにしました。なるべくなら、私の身分を明かさないでください。先に亡くなられた育てのご両親にたいへん世話になった人とでも言ってください。そこら辺は旨くお願いしておきます。行政書士の宮崎さん、幸子と永代供養の件、頼んでおきます。
平成27年5月7日
住所 福岡県久留米市中央町1番地1
遺言者 田中 太郎 印
※補足説明
出生時に自分の子供ではなく、他人の実子として届けることを「藁(わら)の上からの養子」といいます。一昔前はよくあった事例だそうです。相続の際にトラブルとなることがあります。そのような秘密を抱えた人も少なくないでしょう。ただ、自分が生きている間にはどうすることもできなくて、已む無く死亡後に願いを叶える方法の一つが遺言です。どのような内容にすれば、スムーズに実現できるか、前もって検討すべきです。よって、事前に遺言執行者を頼む行政書士などの専門家と相談されることをお勧めします。
上の遺言書は、自筆証書遺言の見本です。全てを自分でペンを使って書き、必ず日付を入れてください。印鑑は認印でも構いませんが、実印が良いでしょう。作成後、封筒に入れて封印をし、妻に預けておくと良いでしょう。
当然、公正証書の原案(下書き)としても利用できます。公正証書遺言が、より安全で安心です。